R.I.P. Masatoshi K.

その日は前の日が残業で、遅い時間の帰宅となったため、
朝に入浴すべく、いつもより1時間半く起床し、朝からSNSを覗いていた。

SNSの検索ワードに登録してある、見慣れた漢字4文字をタップしてしまうのは、もはや無意識である。
どうせこんな朝早くから新しい情報など投稿されるはずもないのに、と、毎回、心の中でツッコむタイミングよりも0.1秒早く、指の方が先に動いてしまう。

しかし、その日の朝は、ある投稿が目に入った。

よく分からなかった。読み返した。
私の読み間違か、もしくは投稿主の勘違いではないか、
私が知っている人とは別の人のことではないだろうか。

検索ワードの四文字を、違う四文字に変えて検索した。

まさか。

今までだって、あまり表立ってネットに出てくるお名前ではない方だ。
ひとつ前の検索結果が間違いならば、対した内容でしかヒットしない、そう思っていたのに。

日本テレビのドラマ制作のプロデューサー、
加藤正俊さんがお亡くなりになられました。
それも、54歳という若さで。

「ごくせん」など多くのヒット作を手がけられた方。

―そして、私が大好きな財前さんご出演の、大好きな作品「お水の花道」をはじめ、沢山財前さんと関ってこられた方である。

ドラマ「お水の花道(1999年)」は、言わずと知れた財前直見さんの代表作であり、（この記事の投稿後の財前さんのInstagramのポストで、「お金がない！(1994年)」にも携われていたことを知る）
私もこの作品で財前さんのファンになった一人だ。
ほかにも、同じ共同テレビ制作での財前さんの作品では
「神様のいたずら(2000年)」
「新・お水の花道(2001年)」などを手がけられた。

15年ほど前の話だが、「お水」当時の加藤Pのインタビューをネットの記事で読んだことがある。
華やかな夜の世界・六本木で伝説のナンバーワンホステスである明菜役に財前さんを起用した理由について、
加藤さんは

今回は、"こんな＊＊さん見たことがない"
というのをテーマにしている。
こんな派手な財前さんって、
世間の皆さんのイメージにないですよね

と仰っていた。

当時の私は、「お水」以前の財前さんの出演作については知らず、世間が抱く当時の財前さんのイメージなど、もっと知るはずがなかったので、この発言で、それまでの世間の "財前直見さんという女優のイメージ" は、明菜のようなキャラクターとはあまり結びつかないタイプの人だったらしい、と知った。
その財前さんに明菜役を演じてもらおうと決めた加藤さんと、見事それに応えられて、やがて代表作と言われるまでになった財前さんのことを思うと、プロってこういうことを言うんだ、名作ってこうして生まれるんだと、そして何より、財前さんがいつも言う「可能性は無限にある」を実現させた人たちは、本当にいた、と、子供ながらに強く胸を打たれたことをよく覚えている。

その後、日本テレビに移籍（という言い方が正しいかはわからないが）されてからも、2004年の「ナースマンがゆく」から2019年の「白衣の戦士！」まで、財前さんは多数出演された。
同じプロデューサーや監督と何度もお仕事されることは、ほかにも有らっしゃるだろうが、”加藤Ｐ作品と財前さん” というと、いつも「安定感」という名の絆、みたいなものがあったと思う。

そして、加藤Pの作品に財前さんが出演されるとき、私たちファンは（とか、代弁みたいに言っちゃって）いつも「お水の花道」のことを思わずにはいられなかった。
「ナースマンがゆく」では、財前さん演じる風間先生の人間味溢れるキャラクターはまるで明菜さんだったし、「美咲ナンバーワン!!(2011年)」は、財前さんの産休明け復帰後初の連ドラだったし、それも六本木のクラブの「ママ」だった。
「花咲舞が黙ってない(2014年)」では、石崎オーナー＠上川隆也さんの元奥様という役柄で再度共演してくれて、ロケ地もばっちり明菜さんと石崎さんのデート場所。しかもその回の脚本は「お水」と同じ梅田みか先生だった。（朝ドラ「ごちそうさん」で親子役だった杏さんとも共演していて2度美味しかった）

「正義のセ(2018年)」では、加藤さんワールドではいつも善人として描かれてきた財前さんが、初めて犯人役を演じられていて。
大体、財前さんの犯人役というと、やばい系・インパクト強め系が多い中、作中の中の財前さんは人間味のある犯人だった。
最後にご一緒された「白衣の戦士!(2019年)」では、「かつての伝説のナースが余命幾ばくもない患者としてヒロインが務める病院へ入院してくる」役で、これはもはや財前さんへのリスペクトでは、と思いながら見ていた。

いつも加藤さんが大事にしているコンセプトは一環していて、その中でも、ここぞというメッセージを伝えたいときに、その役目を果たしに、財前さんは演じにこられるというか。
ファンという立場を利用し、もっと容易い言葉で言うのなら、見終わったあとはいつも「俺たちの財前さん、やぱ最高だな！」と思えたのだ。

「花咲舞･･･」以降は、加藤Ｐのドラマが始まるとなると、毎回ファン友さん達と「今回は財前さん出るかな予想」を展開するのもファン活の楽しみのひとつだった。

この先も、そういった作品が、当たり前のように見られると信じていた。

あの日の朝、しばらく放心状態だったが、そのあと少しTwitterを掘っていくと、上川隆也さん、高杉亘さん、ドランクドラゴンの塚地さん、音楽家の大島ミチルさんなどが追悼コメントを出されていて、一気に実感が沸いて涙が溢れてしまった。
動揺を隠せるためいつもより朝早く起きて良かっただなんて思いながら、実際には心がおぼつかないまま出勤し、なんとなく仕事をこなしていた。
けれど、昼休みに更新された財前さんのInstagramを見て、あぁやっぱり現実なんだなぁ、と。
それから、何度も何度も財前さんのポストを見返しては、じわり、じわりとこころに穴があいていく。

私なんてたかが、いちドラマ視聴者でしかなくて、そこまで落ち込むか？と思われるかもしれないけれど。
もちろん、「ごくせん」シリーズをはじめとする、ほかの作品も本当に好きなドラマが数多くあるのだけれど。

幼い頃から今に至るまで、ずっと大切な存在である明菜さんを作ってくれた人であり、
その明菜さんをずっと大切にしてくれた方。
だから、悲しくて、つらくて、当たり前なんです、私。
おねーさん、いま、めちゃくちゃ寂しいです、わたし。

あまりに立ち直れず、お悔やみの言葉すら躊躇っていたこの4日間。追悼の意味を込めて、なにか私にできることはないか、私が天国へ旅立たれた加藤Ｐへ伝えられることって、やっぱり絵しかないな、と思い、ファンアートを描き始めたのですが、描くにあたり、過去の作品を見返したらば、やはり面白くって笑ってしまって。
これが加藤Ｐのドラマなんだって、改めて実感しました。

まだまだ、もっと加藤さんの作品が見たいです。

最後に。

YouTubeで、明治大学創立150周年記念として、卒業生からのメッセージというので加藤さんが1年前にコメントを寄せられている映像を拝見しました。

若くしてお母様が亡くなられて、”これから親孝行ってときに、もう出来ないんだな”と思っていたところに、当時働いていた職場で携わっていたドラマの監督から、「これからお袋さんにドラマを作ってやればいいんだ」と言われ、”そうか と、迷わずいけた。その思いでこの30年走り続けてこられた" というお話がすごく良かったです。

だからこそ、いつも笑って泣けて、最後にほんのりメッセージ性が残る･･･という、あのコンセプトを貫き続けてこられたのかな･･･。

どうか、安らかにお休みください。

加藤さんが作られた作品の数々、
私、この先もきっと忘れません。